新垣三線ヒストリー

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新垣喜盛(あらかきよしもり)のあゆみ

※名前の「喜盛」は童名(わらびな: 琉球諸島や奄美群島にみられる伝統的な名前、戸籍名とは異なる)として「きせい」と呼ばれることもある。

1941(昭和16)年10月11日、読谷村渡慶次に生まれる。

沖縄の本土復帰前後、沖縄市松本(池武当)で釣具店を経営していた。
その頃、店で販売していた瞬間接着剤を三線職人たちがよく買いに訪れていた。
何に使うのか尋ねると、「三線の製作に欠かせない」との答え。
そこに商機を感じた喜盛は、メーカーから徳用サイズを仕入れ、使いやすい小分けボトルに詰め替えて、県内各地の三線店を行商するようになった。

接着剤の使い方を説明しながら販売するうちに、次第に三線製作そのものに興味を持ち、自らも見よう見まねで製作を始める。
ちょうど沖縄海洋博の特需で「家宝」として高級三線を求める人が増えた時期でもあり、技術を磨けば生業として成り立つと確信した。
こうして釣具店経営のかたわら、三線づくりに本格的に取り組み始めた。

池武当新垣三線店の創業年は1978年(昭和53年)とされている。
当時、読谷の海へ向かう釣り人でにぎわった店は、いわゆる「ナナサンマル」の右側通行から左側通行への車線変更により経営が難しくなる。
その状況を見越し、釣具店から三線店へという異例の転身を果たしたのだった。

音楽経験ゼロからの挑戦

多くの三線職人は演奏家や指導者としての顔も持つが、喜盛は三線を弾いた経験すらなく、音楽とは無縁の世界から飛び込んだ。
一見ハンデにも思えるが、固定観念にとらわれない発想で独自の技術を築くことにつながった。

そんな折、製作した三線を手に、当時野村流音楽協会会長で後に人間国宝となる島袋正雄先生のもとを訪ねた。
突然の訪問にもかかわらず、島袋先生は喜盛の作品を見て
「これだけの技術があるのなら、本腰を入れてやってみてはどうか」と励ましの言葉をかけた。
この出会いが、職人として歩む決意を固める大きな転機となった。

以後、島袋先生からは演奏だけでなく、三線の美学や精神性、そして三線そのものへの深い理解を学んでいった。

「本蛇皮強化張り」技法の誕生

三線製作の難しさは、材料の多くが沖縄県内で調達できないことにある。
とくに胴の蛇皮はすべて海外から輸入され、製作過程でも破損が絶えなかった。
弾かずに保管しているだけでも皮が破れてしまうため、耐久性の向上は長年の課題だった。

試行錯誤の末に生まれたのが、「本蛇皮強化張り」技法である。
これは胴の木枠に合成繊維などの補強材を張り、その上から本皮(蛇皮)を重ね張りすることで、本皮の音質と高い耐久性を両立させた革新的な製法である。

この技法は沖縄県中小企業製品開発費の補助を受けて研究され、特許も出願(公開)された。
現在では多くの三線製作所で採用され、三線の普及に大きく貢献している。

三線ブームとともに

1990年代、THE BOOMの「島唄」などをきっかけに全国的な沖縄ブームが訪れる。
「本皮でも安心して県外へ持ち出せる三線」として、強化張り三線の需要が急増した。

県内のテーマパークでの販売を機に人気はさらに高まり、製作は沖縄だけで追いつかなくなった。
そのため、もともとの蛇皮輸入先であったベトナムに製作拠点を設け、生産体制を拡大していった。

2000年代に入ると、沖縄市・うるま市(当時具志川市)を拠点に、那覇・平和通り、東京・新橋などへ店舗展開。
県内外で多くの三線を販売し、沖縄の音色を広めていった。
(※2007年ごろおきなわワールド・新橋店撤退、2010年那覇・平和通り店閉店)

技と理念の継承

実演家から初心者まで、幅広い愛好家の要望に応えながら、伝統を守りつつも時代に合った三線づくりを追求してきた。
特に、演奏の要となるカラクイ(糸巻き)の改良には力を注ぎ、機能性・耐久性の両面から改善を重ねている。
自社の利益だけでなく、三線業界全体の発展を見据えたものづくりを信条としている。

現在は、長男・薫、次男・茂に技術を受け継ぎながら、
生涯現役の三線職人として、常に新たな三線の可能性を探求し続けている。

主な受賞歴・参加事業
• 1991年:「三味線製造方法及び装置」として特許出願
特許出願番号:特許出願平3-314989
特許公開番号:特許公開平5-150765
• 1991年:社団法人発明協会沖縄県支部
第20回沖縄県発明くふう展「支部長賞」受賞(琉球三味線蛇皮張り加工機)
• 1992年:第15回沖縄市産業まつり「最優秀賞」受賞(琉球三味線蛇皮張り加工機)
• 1993年:第16回沖縄市産業まつり「優秀賞」受賞(三味線用本蛇皮強化加工)
• 2001〜2006年:「沖縄美ら島財団」尾張徳川家伝来の琉球楽器復元事業に参加
三線の棹の復元を担当
• 2023年:新コンセプト三線「なとーんどー三線」を発表
• 2024年:「なとーんどー三線」が沖縄市第1回「新商品アワード」最高金賞を受賞